【三題噺】絵空模様【バレッタ/携帯電話/絵はがき】

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皆サーーーン!
オッハヨウゴジャイマース!!!
九条カレンぽけです。


今回は、唐突に文章が書きたくなったので、以前フォロワーさんたちと行った三題噺を1人でやってみました。

【三題噺とは?】
指定された3つのキーワードを用いて作文書く的なものです。

お題は、
バレッタ
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オタクは知らないですよね。僕も知りませんでした。
髪留めみたいなものです。

【携帯電話】
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化石じゃないよ。
今はスマホが普及してますが、今回はこちらをイメージしてください。

【絵はがきf:id:karen_poke:20180115174046j:plain
その名の通り絵を描いて出すハガキですね。

今回はこのお題をもとに書いていきます。
前回より短くなると思うんでよかったら読んでくれると嬉しいです!!!
それではどうぞ( •̀ᴗ•́ )/

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絵空模様


夕闇に染まる道を歩く。はぁ、と吐いた白い息が悴んだ手を覆い被せ、すぐに消え去った。
先輩と二人で帰ったこの道を一人で歩くようになってもうすぐ一年が経とうとしている。そんなことをふと思い出し、風はよりその冷たさを増したように感じた。

先輩と私は同じ美術部だった。
人懐っこくて優しい先輩に、内向的な私が惹かれるのにそう時間はかかることもなく、入部してから1年が過ぎた頃に勇気を出して告白した結果、初めての恋が実ったのだった。
先輩は優しかった。何もかも初めてだらけで戸惑う私に足並みを合わせて、ゆっくり、ゆっくりと、少しずつ幸せな時間を積み重ねていった。

だが、時間は有限だった。
先輩は程なくして卒業、東京の大学へと進学していった。私達の住む町は所謂田舎のようなところだということもあり、進学するには必然的に遠く離れた地へ行くことになる。頭では当然分かっていたことだ。しかし、私は大好きな先輩が遠くに行ってしまうことがあまりにも辛く、先輩の前でみっともなく泣きじゃくってしまった。そんな私の頭を、やっぱり先輩は優しく撫でながら「遠距離でも大丈夫だよ。一緒に頑張ろう」
と、慰めてくれたのだった。

先輩が東京へ行ってからは、こまめに連絡を取り合った。電話やメールという手法で気軽に連絡が取り合える時代だったことに本当に感謝している。
今日も私は、帰り道で先輩への一日あったことを報告するメールの内容を考えながら歩いていた。

ふと、空を見上げる。
透き通った空気の向こうで、もう殆どが暗く染まった夜空にぽつり、ぽつりと輝く星が並ぶのを見つけた。
「そういえば、都会は星がよく見えないって言うもんね」
私は、携帯電話のカメラを起動し、夜空めがけてシャッターを切った。
静かな町に微かに響いたシャッター音の後、ディスプレイに表示されたのは、ただ真っ黒に映った空だった。
むぅ、どうにか綺麗に写せないものかな。
空は夕陽と闇夜が入り混じった綺麗な色をしているし、星はそんな夜空に白くアクセントを加えている。こんなに美しい空でも、カメラ越しでは何も分からなくなってしまう。きっと日頃と大した差のない風景なのだろうけど、目にしてしまったからには残しておきたくなってしまうし、先輩と綺麗なものを共有したい。
しばらく悩んだ末、私は名案を思いついた。
「そうだ、絵はがきにして先輩に送ろう」
そう呟いて、小走りで帰路を辿った。


「さぁ、描くぞ」
帰り道で買ってきたはがきと、水彩絵の具を自分の部屋の机の上に広げる。
「思えば、こうして絵を描くのも久しぶりだなぁ」
先輩が卒業してから、私は三年生になり、進路を決めねばならなかった。それまで特に希望がなかった私は、東京の大学へと進学を希望した。しかし、先輩の大学に入るためにはもっと成績を上げる必要があったため、部活を引退して以来ずっと勉強漬けで絵を描くことがなかった。
私は久々に握った筆に少し心を弾ませたものの、ハッと『いつもの準備』をしていなかったことを思い出し、一旦筆を置く。そして、長く伸びた髪を後ろで纏めて、バレッタで留めた。
まだ付き合う少し前、部室で絵を描く私のところに突然先輩が現れて髪の毛をふわりと持ち上げ
「ほら、髪が汚れちゃうよ」
と、優しく後ろで纏めて持ってくれたことがあった。初めて男の人に髪を触れられたこと、それが大好きな先輩だったこと、色んなことにドキドキとして、思わず舞い上がってしまうかのような気持ちになった私は、それ以来、髪を伸ばすようになった。
そうしていると、先輩がふと気づいて来てくれる。ちょっぴり狡いやり方なのかも、なんて思ったけど、それ以上に嬉しくてたまらなかった。
付き合い始めてから、しばらくして先輩と卒業の話をするようになり始めたころ、
「先輩が卒業しちゃったら、私の髪の毛が絵の具でいっぱい汚れちゃいますね」
なんて冗談混じりで言ったら、確かに!なんて笑っていた先輩が、後日私のところへ来て
「俺が卒業したら、今度はこれ使ってよ」
なんて言いながら、可愛い星のついたバレッタをプレゼントしてくれた。
それ以来、私は絵を描くとき、ずっとこのバレッタで髪を纏めるようになった。先輩が傍に居なくても、先輩の優しさが感じられるような気がして、心が温かくなった。

髪を纏めた私は、筆を握ると、絵はがきに夜空を描き始めた。すぐ傍の窓から覗く月明かりが手元を照らし、窓の外を見上げると、紺碧に広がった空いっぱいに小さな星明かりが煌めいていた。
先程とはまた表情を変え、それでいて劣らず美しい夜空に私は息を飲み、その夜空の紺碧をはがきに落としていく。
ーーーこんなに綺麗な空だったら、先輩もたまには帰って来たくなっちゃうかな。
絵はがきを受け取った先輩の表情を思い浮かべながら、軽快に筆は進んでいく。

そうして一通り空を描き終えたところで、携帯のディスプレイに『新着メール 一件』と通知が来る。
「先輩だ!」
まさに想い浮かべながら絵はがきを描いていた相手からのメールに笑顔を浮かべながら、私は携帯電話を開いた。
そして、先輩から送られてきたメールを、一文一文しっかりと読んだあと、月明かりの覗く窓を見上げる。

窓の外には、滲んだ星空が広がっていた。

私は、もう一度筆を取り、はがきに描かれた夜空へ白く輝く星を落とす。

とっ、とっ。
小さな星を何度も、何度も。

とっ、とっ。
先輩へのたくさんの想いを。

とっ、とっ。
大好きな先輩との思い出の数だけ、私は夜空に打ち込んだ。


****

【エピローグ】


空が白み始める。
窓から射し込む柔らかい光が、すやすやと寝息をたてる少女と、宛先の無い手元の絵はがきを照らした。
数えきれないほどに打たれた白い星は滲み、空に溶け、窓の外から覗く黎明の空と同じ色をしていた。